
雄大な峡谷だけに価値があるわけではない。
「大自然」だけがいいわけではない。「小自然」も同じように価値がある。そもそも「大自然」という言葉の使い方に問題がある。だから、最大の滝も撮りに行くし名もない沢も登る。
巨大なサソリが立ちふさがっているように錯覚したP川支流のUT沢.。
この沢を源流までつめて、地図を見ながら、帰りは別の沢を下ろうと色気を出して完全に迷ってしまった。地図上で、あると思われた沢にいつまでたってもたどりつかないのだ。一時間近く彷徨しているうちに夕暮れがせまってきた。そろそろ決断しなければならない。
進むのか引き返すのか?
悩んでいる時、あの「サソリ」が合図のように思えてきた。ここで引き返せという合図だったのかなあと。ひとりで深山に迷い込むといろんなことを考えるものだ。それがたわいのないものだったり当たっていたりするから始末が悪い。
こういう小さな沢ではテン場を探すのも容易ではない事が多いので、大事をとって引き返す事にした。
ところが今度は帰り道すら見失ってしまった。さっきの沢にまちがいないと思われる崖上へ出たけれど、下りるところがさがせないのだ。どこまで行っても100mを超えるようなネマガリタケの崖なのである。それで、探すのもめんどうだし体力まかせで強引に下りた。斜度は50度くらいだろう。断崖というほどでもない。ネマガリタケをわしづかみにしながら荒技で下りたという感じだった。ズボンはドロドロ、シャツも顔も腕も擦り傷だらけになった。30分くらいの一仕事という感じであっさり下り終えた。沢の水で手と顔を洗って一服。後は沢づたいに下りればいいだけさ。日が暮れようとも先が見えていれば不安は何もない。
ふ〜。こんな小さな沢でも100mをこえる谷が待ち受けていたりする。