ちょうどいい例があったので書いてみる。
先月、僕は南八甲田の源流部に3週間ほど単独野営をした。その野営中に、東京のカメラ雑誌編集部の同行取材の依頼があって、編集者とカメラマンのふたりを迎え入れた。その時の川の遡行中に、少しひやっとするような、一歩まちがえば滑落事故になりかねない危険な箇所があった。
その時ぼくは、川を渡渉するのか高巻き(山へ迂回)するのか迷った。二者択一をせまられたのである。川はけっこう深いし、水量もある。渡渉経験のないふたりでは危険だし、上半身まで濡れそうだから渡渉に成功したとしてもその後、身体が冷えて体力を消耗するだろうと考えて、高巻きを選んだのである。
せいぜい5.6mほどの崖に近い高巻きになったのだが、登りは問題なかったが、下りは難易度が高かった。足場も濡れた斜面でおちつかないし、手にする木の枝やナマガリタケの間隔も密集しているわけではない。体力もテクニックもそれなりに必要なのである。僕が先に下って崖の下から、彼らの下りを助言していったのである。手足の移動をひとつひとつ指示して難所を乗り越えた。崖の下に降り立ってふたりは「バンザーイ!やったー!」と叫んでいたんじゃなかったかな(笑)。見ていた僕も少しドキドキもんでした(笑)。
ここにはひとつの示唆がある。
僕一人だったら何の躊躇もなく渡渉を選択していたはずだ。だからグループ行だからこそ危機にさらされたという面もあるということ。もちろん僕は、彼らがキャンプに同行する前に、衣服や靴などの装備のアドバイスをおこない、ショップへ行って実際に沢靴の選び方なども助言している。それでもグループ行になるとどうしても各人の体力差、経験値の差がでてくるものだ。グループ行には単独行にはない別の危険がともなうのである。
*グループ行なら危険は少ない。
*夏山は、それほど危険ではない。
*ガイドがついているから危険はすくない。
大雪山系の遭難事故には、ツアー会社側にも参加者側にもこういう誤解があったのではないか。
どれも注釈つきで理解しなければいけないことです。
*グループ行でも危険性はそれほど変わらないのです。今回のでそれがよけいにはっきりしました。生死をともなうような危険な天候下では誰もが自分のことでせいいっぱいになる。だれにも頼れないと思った方がいいのです。
*夏山でも凍死する。これも事実です。低体温症というのは怖いものです。体力が落ちているとこれにかかりやすくなる。だから僕も上半身まで濡れる渡渉をためらった。この南八甲田でも大雪山とちょうど同じ8℃くらいでしたから。
*ガイドが助けてくれるのは、危機の時ではなくて平常の時と思った方がいいです。
10数人もぞろぞろ山行するというのはそもそも僕は反対です。自然が、復活できないほど破壊されるというのは目に見えている。その人数で湿原を歩いたら数回で湿原は壊れるし、その人数で川を歩いたら苔はすっかり剥がれ落ちてしまう。前に一度、ある写真団体から、八甲田撮影ツアーの問い合わせがあって、利益を出すためには20人以上の参加者が必要だという話があった。僕は、「無理だ」と答えました。僕もツアーの仕事が欲しい懐具合でしたけど、それをやったら仁義に反する。

2009.6.19 北八甲田 EOS5D Mark II、EF24mm F1.4L II USM