
R沢大滝を去って、僕はひとつの支流の沢に入った。
晩秋だと言うのに、きらめくような草木の生命力。
あちこちにあふれる清冽な水の流れ。
岩魚が走り、聞き慣れない「キョーン」とか「キキキキキーッ」という野鳥の鳴き声が響き渡る。
まぎれもない楽園なのだ。
どこにもありそうな何気ない風景なのにすべての生命力の力強さがちがうような気がする。
このシーンこそ南八甲田の真髄なのだと思う。
寛容に満ちた豊かな自然。あづましーっとおもわず唸っていた。
この沢に早朝に入るために僕は、真っ暗な夜に歩き始めた。ここには林道があるからヘッドランプをつければ夜であろうと平気だと思ったのだ。林道の途中でキツネを見た。ヘッドランプをつけた僕の方を注視してわずか50m離れたあたりでじっとしばらく見つめてやがて立ち去った。それからはどうにも周囲の気配が気になって落ち着かなくなった。あのキツネは山の神の化身かなと(笑)。キツネにしろテンにしろ熊ですら、ほとんどのけものは夜行性である。気配が充満しているかにみえる山の夜の静寂(しじま)はどんよりと深い。心細い闇の中を一時間ほど歩き、ようやく空が白けてきた。やがて抜けるような朝陽が沢に差して来てこの光景に出会った。
今回は、いきなりの遭難遺体(自殺?)でショッキングなスタートで、厳しい渓谷を越え、薮をこぎ、崖を降り、大滝の上に立ったりしたけれど、山の神はようやく穏やかな光景を拝ましてくれたような気がしましたね。